地球を何周もお供してくれた私のラップトップ「XP]がとうとう寿命がきてしまい、ある日ぱたっと心臓が止まってしまいました。一時はいきなりワインを飲まされて音が出なくなったりしながらも、よくがんばってくれたコンピューターです。世界の果てでもちゃんと信号拾ってくれて、スカイプで日本と話すことができました。
3日間もり塩をしてお通夜をした後、きれいに清めてお礼を言ってお弔いをしました。
というわけで、今東芝の新しい「ななちゃん」が我が家にやってきました。3万円ちょっとで買えました。「ウインドウ7」が入ってます。画面も大きいし、いやあ、すごい。音も出る、あたりまえだけど。写真なんかソフトのプログラムを察知して自動的に入れてくれる。「さざえさん」も迫力ある。
で、「XP}に入れていた下書き原稿10個くらい消えてしまいました。これから書きなおしまあす。
- 2009/11/17() 17:16:01|
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「真珠と下着」
私が今までに一番華やかに社交界に出入りしていた時といえば、なんといってもあの無料で引き受けた面白い「仕事」をしていた時だ。場所はロサンゼルス。まだ30代終わりの若いときで、そのときは空港でフルタイムで働いていた。その一日の仕事を終えた後の夕方からのお仕事、それが、ビバリーヒルズにある会員制スポーツクラブに「出勤」して、そこからその日出席するパーティ会場へ「お出かけ」することだった。
最初はそのクラブへ友人に食事に連れて行ってもらったのがきっかけだった。そこで40代くらいの頭の毛が薄くなった気の良さそうな独身のマネージャーに紹介され、その時に「スカウト」された。彼はロサンゼルスに多いゲイであるが、立場上それを公にできないでいた。というのは、もちろん後でわかったことだが、場所柄もあり毎晩のように、あちらのレストラン、こちらの劇場、なんとかのオープニング、かんとかのウエルカムとパーティの招待状がくるのはいいが、夜の招待は普段カップルでのお出かけになる。彼は、それらのおつきあいパーティーにいっしょに行ってくれる無難な人を捜していたらしい。出来ればそれなりに見える女性の。ま、出来なくても女性に見える。
出勤は、スポーツクラブの玄関前に車を乗り付けることから始まる。ピッとしたスーツを着込んだヴァレーパークのスタッフは、うやうやしく、しかし、嫌みのない親しげなスマイルで、会員のポルシェやベンツ、ジャガーなどのキーを受け取って、パーキング場まで移動する。私は中古の小型車の鍵。友人から廃車にするところを100ドル、つまり一万円で譲ってもらったものだ。玄関前のドライブウエイは、右側から回り込むようになっているが、私はいつも左側から回りこんでいた。反対側はべこんとドアがへっこんでいるし、それに色も違っているという理由で。はい、大いに遠慮しつつ。
クラブ内は、バーがあり、レストランがあり、いかにも高い会費を払っていますという感じの中年以降の人たちで混む。ジムで運動するというより、女性たちはプールサイドのカラフルなパラソルの下でカクテルを飲みながらおしゃべりをしたり、スパでマッサージをしたりしてもらうためにやって来る。男性たちも毎週テニスでがんばって健康的に日に焼けました、と言う感じの肌色で、にっこり笑う口元には、いかにも大金を使ったぞという白いきれいな歯並びがのぞく。
更衣室にはドライサウナやスチームサウナ、ジェットバスがあり、バスローブもロゴが入った分厚い白いタオル地だ。基礎化粧品もふんだん。そこで私は、空港から着てきた制服を脱いで一息ついた後、ゆっくりと着替えをする。そして、その日のお仕事に行く準備をする。
最初のお供は、あるクラブの有力なゲストのホームパーティだった。ダークスーツに着替えたマネージャの運転するBMWに乗り、閑静な住宅街に入った後は並木道の通りを静かに進む。目当ての瀟洒な住宅のまわりのに、ぴかぴかした車がもうだいぶ並んでいる。植え込みの深い広い庭に続く玄関を開けてくれる人がいて、うやうやしく持ち物やコートを受け取ってくれる。一歩入るとハープの優雅な演奏が耳に入ってくる。 中に入るとロングのベージュのドレスを着た演奏者が一段高くなったステージで音を奏でていて、銀のトレイにシャンペンをのせた蝶ネクタイのひとが客の間を回っている。一角には、オードブルのコーナーと、自由に飲みたい人のためのバーコーナーがあって、雇われバーテンダーらしい人が蝶ネクタイで立っている。お客様はカジュアルな、でも質のいいジャケットやダークスーツとおしゃれなイブニングドレス姿。こういう場違いなところへ、自分が安物の洋服を着て立っているのが不思議に思える。それもゲイのおっちゃんをエスコートし、、じゃない、エスコートされて。
さて、その日はスチームサウナで汗を流し、化粧もばっちりしたあと、あっと思った。ない。ない。忘れた。ばたばたしていて、着替えの洋服を一揃いすっかり忘れてきていた。あーあ、ため息と、ふーっ、深呼吸ならぬため息をもうひとつ。寒くなり始めた季節で、紺色のボタンなし、ロングのオーバーコートを着ていた。ひとつしか持っていない真珠のネックレスもあった。靴はそのままでいける、紺色の中ヒール。小さめのバッグも持ってきている。なにしろ荷物がいつも多いのだ。よし、これでいこう。今日は脱がない。脱げない。コートを着たままだ。これは一応カシミアだ、えーっと、65%混じっているカシミアだ。
かくして、下着の上にネックレスと膝丈のオーバーだけを羽織り、すましながら前をしっかり手で押さえ、その日の会場に彼といっしょにお出かけする。ロデオドライブに。シャネルのリオープニングパーティに。
その後、ロサンゼルスを離れるまでつつがなく、楽しくこのお役目を続けられたのも、きっとあのきらきらしたシャネルの店で、何度すすめられてもオーバーを脱がず、前で両手を離さずも、にっこり堂々とシャンペングラスを持って応対できた嬉しい経験があったからかも。
招待客はさすがにきれいな装いをした女性が多かったけれど、そのうちの一人が、シャネルのクリーム色のワンピースをあまりにセンス良く着こなしているので、きれいねえと褒めたら、あなたは中に何を着ているのと言う話になった。「見たい?」こういう時は女性同士、目が輝く。シャンペンで店内の気も緩む。
「日本製のパールとブラだけよ」
え?という表情の彼女を前に、私は他に仕様がなかったこの究極の「おしゃれ」を、だれかに言いたくてたまらなくなった。そっと周りを見てから、彼女に一歩近づいた。
「ほらっ」
- 2009/10/18() 07:30:57|
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謎のハイヒール
まるで月の砂漠に一本道があったらこうじゃないかと思われるような、木もない、緑も無い、車も通らない、長い長い一本道の360度見渡せる広野のハイウエイでした。場所はテキサス州の西の端、ニューメキシコ州に向かっていました。夏のぎらぎらした太陽がハイウエイに照り返し、たぶん外は40度は超えるかと思われる暑さ。冷房がかろうじて効いている車内で、何処まで行っても代わり映えのしない道路を、あくびをしながら運転していました。スピードは制限速度の約100km。他に車もなく建物もないので距離感覚がなく、早いんだか遅いんだかわかりません。
頭と喉を冷やそうと、前の晩モーテルの冷蔵庫で凍らしてあったペットボトルの水を発泡スチロールの箱から取り出し、口に持っていった瞬間、道路の前方左端に白っぽいハイヒールらしいものがふたつころがっているのが目に入りました。
え?ハイ?ヒール?水を手にもったままあっという間に通り過ぎました。同時にそのハイヒールが置いてあった所に、小さなコンクリートの四角い物置小屋のような建物が建っていて、その前面に何やら信じられない文字を一瞬目にしたような気がします。
こんなテキサスのど田舎の砂漠の町に、いったい自分は何を見たのか、もちろんUターンです。
そこにあったのは、月の砂漠のお城でした。いや、イタリアのお城というか、、。古いハイヒールの置かれた小さな建物の前面には、あの超有名なイタリアのブランド「プラダ」のロゴが、空港の免税店で見るのと同じ紺色に白抜きの上品な文字が入った看板2つが、堂々と掲げられ、小屋と思った建物にはガラス張りのショーウインドウ、、。
プラダの店?ここに?まさか、冗談でしょう。まったく。あまりの暑さに蜃気楼でも見てるのかと思いました。暑い地面に車を止め、もう一度冷たい水をごっくり飲んで、ついでに首筋も冷やして、くらっとするような暑さの中ハイヒールのそばに行きました。
そこには間違いなく、お城のお姫様が履くような真新しいぴかぴかの靴やバッグが、この四角い小さな建物のウインドウ越しに並んでいました。小さなガラスのドアはしっかり閉じています。建物を一回りしました。地面の照り返しが暑く、空気がまぶしく感じます。もう一回回りました。コンクリートの壁に出入り口はありません。冗談ではなさそうです。いや、やっぱり冗談なのか。外にも中にも誰一人いない、車一台と折らないシーンとした砂漠の広野に、正真正銘プラダの看板と商品を飾ったお店がぽっつんと「立って」いるのです。
アメリカは何ておもしろいん人がいるんでしょう。こんな何にもないど田舎のマイナーなハイウエイの側に、こんなわけのわからない建物を建ててしまうなんて。暑くてぼーっとした頭をさましてくれる運転者への心遣い?車から出て一回りすれば、謎解きで少しは頭も冴えるでしょう。こんな目を疑うようなところに、目を疑うようなイタリアの超有名なブランド品を揃え、看板まで本物で、誰が置いたか外に目印らしいハイヒールも置いてある光景を見たら。
ハイヒールの側に小さなたて看板があって、謎が少し解けました。この辺の地域がアーティストやあちこちの協力の下に、これを「作品」としてディスプレイしてあるそうな。そうか、これ全体がアートなのか。へえー。
よし、私もアートしよう。だれが置いたかその古いハイヒールを持って、ハイウエイの真ん中に行き、アート作品に向けてふたつを微妙に揃えて置いてディスプレイしました。
真夏の、だれも通らないどこまでも続く砂漠の一本道のど真ん中、一組の履き古したハイヒールを手に、離したりくっ付けたり、ころがしたり、向きを変えたり、寝かしたり、倒したり、逆さまにしたりと展示方法を一生懸命考えながら。
- 2009/10/18() 07:27:03|
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ハリウッドの「おくりびと」
私の故郷山形での撮影だった、アカデミー賞をとった「おくりびと」、私にもこれに関して忘れられないひとつの出来事があります。
このアカデミー賞をとった映画の町、ハリウッドで一時「特殊メイク」の仕事に関わっていた時がありました。半年かけて技術を学んだ後、舞台やビデオ映画のためのメークや、傷跡や「モンスターメイク」などをやっていました。たまたま良い先生にもついて、例えば、海で遭難して3日間救命ボートに乗った遭難者の日焼けした顔とか唇、1週間さまよった場合の違いとかくわしく教えてもらいました。
私の友人に30代の、近くでスポーツクラブを経営する男性がいました。女性にも男性にも人気のある人で、一度彼の友人たちと一緒に彼の所有するクルーザーにも乗せてもらったこともあります。仕事もうまくいっていて、毎日楽しそうにしていたその人がある日突然不幸に遭いました。なんと、彼のクルーザーを係留していたヨットハーバーの近くで、強盗に襲われたのです。バッグを奪われ、拳銃で撃たれて即死、、、。
共通の友人から電話が来た時は言葉を失いました。私はその彼と前日電話で話をしたばかりです。それも冗談をまじえて、自分が死んだ時はきれいなメイクを頼むね、と、、、。
話は今度のハロウイーンのお化けメイクから始まり、どうせならセレブのようなかっこいいメイクもしてみたいね、になり、最後に冗談でその話が出たのでした。うん、うん、それまで長生きするよ。まかしといて。またクルーザー乗りに行くからねーとしゃべったばかりだったのです。まさかこんなことになろうとは、、。
そして、本当にその話のとうりになったのです。当日会場で「彼」に会いました。おだやかな顔でしたが、私は身近に起こったまさかの驚きと緊張とで、最初は身体が震え、息が止まるくらい気を張り詰めていました。これがあの彼なのか、前日までしゃべっていたあの人、、。まるで非現実的で、悲しみよりもこれから始まるまだやったことのない彼の為の「仕事」に頭がいっぱいになりました。
深く一礼した後、そっとスポンジでさわってみて始めてもう生前の彼ではないことを実感し、あとは夢中でした。ちゃんときれいに仕上げなくちゃ、約束守らなくちゃと。
最後に変えたスポンジで唇の色を整えたら、はじめて悲しみがこみ上げてきました。「ほら、ちゃんと出来たよ」 まるで、本当にわかってくれているようです。えらいでしょ、きれいでしょ、ちゃんと映画スターのように見えるよ。うん。うん。今度はいつ会える?
ゆっくり話している暇はありません。連れて行かれようとしています。急いで手をあわせてながら本当に行ってしまうんだと思いました。
今だにあの時のあの出来事はどういう意味があったんだろう、と思い出します。自分がこの世で経験することは全部意味があると教えてもらいましたが、私のご縁のある人たちはいったいどこからやってきて、この世で私に何を学ばせてくれようとしているんでしょうか。
あの時の、哀しくもとても不思議なお別れをしてお見送りをしたあのシーンは、今では私の心の中にある「おくりびと」としての、忘れることのない、身の引き締まるような人生の一シーンとなっています。
- 2009/10/06() 07:06:44|
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ニューヨーク、ある初秋の朝
その日はブルックリンからニューヨークのマンハッタンまで行く直通バスを待っていました。夏の残暑が残る、でもさわやかに晴れた気持ちのいい朝です。
地下鉄と比べるとこのバスは料金は高めだけれど、通勤や買い物などの用事の人たちに便利に利用されています。海が見える眺めのいいハイウエイや、住宅地を通って行く一時間ほどのこのバスの中は、リクライニングの効く二人がけの席が並びます。
時間どうりバスが来て乗り込みました。始発から2つ目なので空いていて、前から2番目に座れました。乗ったとたんちょっと冷房がきついなと思いましたが、こちらの人たちはいつもこういう感じなので、ま、しょうがないと思い、我慢して座っていました。2つ先のバス停で乗ってきた黒い髪のショートヘアの中年の女性が、後ろの方の席へ歩いて行って座り、少しして 「運転手さん、ちょっと寒くない?」と声を出しました。バスの半分くらいの席が埋まっていましたが、そうそう、と私を含めて数人がうなずきました。みんな遠慮していたみたいです。運転手さんは聞こえなかったらしく、聞き返します。遠くのほうからまた女性が声を出しました。「ちょっと冷房が効きすぎのような気が、、」
私の左前方に座っている黒人の運転手さんは、ちょっと見たところ中年の大柄な、目のぎょろっとした恐そうな人です。彼は「なにー?」「寒いー?」、運転しながらバックミラーを覗き込んで言いました。「これが寒いというのかー?」声を張り上げ、車内は一瞬冷房だけじゃなくひやっとした感じに包まれました。
彼はバックミラーに写る彼女を見ながらゆうゆうと言いました。「奥さんっ、私が今履いている暖かいソックスをお貸ししましょうか?」、にっと笑って。楽しそうに。
予期せぬ運転手さんの言葉に、車内はどっと安堵と笑い声に包まれました。彼は「ワイフが僕の誕生日にプレゼントしてくれた特別のソックスです」と言いながら、冷房を緩めてくれます。熊が笑ったようなかわいい顔になっています。数人の声がそれに合わせてはやしたて、ジョークを言い返しました。車内は温度も調整され、とってもいい雰囲気になりました。
見れば運転手さんの制服の半そでシャツとズボンは、ピリッとアイロンがかけてあります。特別のソックスをはいた大きな黒い靴もぴかぴかに磨かれています。毎日奥さんの愛情に送られて仕事に来て、きっと奥さんお手製のサンドイッチでもお昼に食べるんでしょう。お気に入りの店で、冗談を交わしながら熱いコーヒーを買って来て。
バスの席は、バス停に止まる度にお客さんで埋まって行きます。冷房と、そして笑いが程よく効いた車内の席に。
さわやかな青空の下にマンハッタンの摩天楼が見えてきました。
- 2009/10/05() 05:43:59|
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うそみたい 2
沈みかけるか、貨物船
「火災発生!」緊張の第一声があがった。停泊中のパナマ船籍のロシアの貨物船。「発火地点」はデッキの物置小屋だ。早く、早く、消火の用意を、、、!。
ーと、なるはずだった。が、1分経ってもシーン、、。もうこれじゃ、火が燃え移って船が沈むぞ。と、誰かがつぶやいた頃に、やっと銀色の防火服に身を包み、太いホースを手に持ったロシア人乗組員チームが現れた。最初にデッキに現れた数人の足取りは、助かる気がないかのように、のろのろ歩調も合わない。「それっ!」、「こっちだっ!」 の掛け声もなく、まるで今までウオッカを飲んでいたのを邪魔されたような歩き方だ。
この日は沿岸警備隊による年に一度の検査の日だった。火災の発生を想定して行われるこのテストは、発生を示す場所がその時になるまでわからない。
泣く子もだまるというこの検査は、アメリカに入ってくる貨物船や、客船、タンカー、コンテナ船などにとって大変厳しいもので、船員手帳から分厚いファイルまで細かい書類検査に始まり、その後デッキからブリッジ、エンジンルーム、厨房、船室まで細分された項目ごとのチェックが何時間にもわたって行われる。前日になるとあまりの緊張と責任感で具合が悪くなり、病院に連れていかれるオフィサーもいた。
検査には、船が沈みかけたことを想定して、乗組員全員救命具をつけて集合、救命ボートを実際海に下ろして走らせるテストも含まれる。緊張が走るし人も走る。最後はこのように船内のどこかで火災発生、それっ消火だっ、と走る、、はずであった。そして、ホースを海に向けて実際に水の出具合も調べるのだ。
沿岸警備隊チームは4人、オレンジ色の救命着を身につけ、デッキの反対側に立ち厳しいチェックを入れている。もうこりゃやり直しだな、と表情が見て取れる。あー、またスケジュール組んで出直しかあ。
ここはアラスカ、アリューシャン諸島の真ん中ある小さな島で、アジア方面からアメリカ西海岸行きの船の航路に当たっている。ベーリング海で獲れるかにや魚を積みにくる船もいるし、客船も入れば、北極圏まで行く調査船も来る。私はそこで、国外から船を送り込んでくるお客さんのためのオペレーションを担当、船が入港して出港するまで世話をしていた。何か少しでも問題があったり、それを直す部品や書類が必要になったりすれば、船は足止めをくらう。一日無駄にしたらうん十万円の損失だ。気候も厳しく、強風でアンカーが流されたりする船もあり、船がアラスカ圏内にいる間は気が抜けない。
この日も沿岸警備隊のチームと埠頭で待ち合わせ、事前にアレンジしておいたタグボートに乗り込んで、沖に停泊しているこの船へ来た。高い船のデッキから降ろされたなわばしごを揺れるタグボートから摑み、足をかけ一歩一歩上る。すべての検査の作業を終え、結果報告書をもらい、船を下りて帰るまで一日がかりの仕事だ。
この日は案の定、火災消火作業テストを後日やり直しすることとなり、次回まで練習をしておくようにとのお達しの紙をもらう。普通、書類関係やエンジン関係の不備でトラブルがあっても、乗務員のチームプレーで失敗するのはめづらしい。今、積荷用の魚の工場入荷を待っているところなので、とりあえず急を要することでもない。これがもし遠く離れた海上で、他の漁船から積荷作業をする場合は、一日でも早く魚場へ移動しなければならない。
しかしなー。キャプテン、ロシアの黒パンやお茶を入れて、かいがいしくもてなしてくれるのは大変ありがたいけど、他の船の乗組員の見事な消火プレーを見せてあげたいなー。
続く
- 2009/09/30() 07:46:47|
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ファーストレディー!?
普段は格安航空券のエコノミークラスばかりの旅行だが、その時はマイレージでアップグレードされ、めずらしくビジネスクラスだった。
ニューヨークで行われた照明の展示会へ出かけ、その帰り。ワシントンDCからロサンゼルスへのユナイテッド航空のフライトだった。二人がけのゆったりした席が両側に並び、私は窓側の席についた。アメリカの首都だけあって、さすがにビジネスマンが多い。きりっとした空気が漂っている。ウエルカムドリンクもすぐ出てきた。
飛行機のドアが閉まる寸前に女性が乗り込んできた。いかにも多忙のキャリアウーマンという感じで、にっこりあいさつをして私の席の隣、通路側に腰をおろした。私より少し上の年代くらいで、短めの髪、すっと伸びた背筋に青色の身体にぴったり合ったスーツ、大きめのアタッシュケースを手にもっている。「私は忙しいのよ」という雰囲気で、そのアタッシュケースからすぐ書類を取り出し、飛行機が飛び立つ前からもう読み始めた。「はい、じゃましません」という雰囲気で、こちらは手提げから単行本を取り出した。NYで仕入れた大好きな「こち亀」のまんが。
ベルトのサインが消えて、乗務員が飲み物の注文をとりに来た。さすがにていねいで笑顔もビジネスクラス。隣の女性はお先にどうぞ、と私に目で合図してくれ、私は迷わず赤ワインを。隣はジュースと言いかけてちょっと考え、私も赤ワインをと言いなおした。
ふたりで赤ワインのグラスを手に持ちながら、彼女はちょっと一息ついたのか、ぎりぎりまで用事があって、ハズバンドもいっしょに空港に急いでくれ、なんとか間に合ったという話をしてくれた。今日は用事がうまく片付いて、赤ワインを飲みたい気分とも。職業は弁護士で、私が日本人とわかると、自分が知っている日本人の知人のことや、クライアント関係の話もちょっとしてくれる。いかにも聡明で、きびきびした感じで、見ていて気持ちがいいし、感じもいい人だった。
それから数ヶ月以上も経ち、すっかり忘れていた頃、ロサンゼルスの自宅でニュースを見ていて驚いた。新しい大統領のビルクリントン、その隣に晴れやかに微笑んでいるのはなんとあの赤ワインの女性ではないか。ヒラリーという名前も初めて知った。なんと、なんと。私は未来のファーストレディーといっしょに隣り合わせで、何千キロも旅したのか。知らなかったあー。惜しかった。ワインと食事のあと、彼女は忙しそうに仕事に戻ったが、もっといろいろ質問してみたかった。貴重な時間を「こち亀」を読みふけっていた私。3冊も。
そうなのか。よし。あの雰囲気ね。あのしぐさね。その後の私は、飛行機に乗るたびに機内で隣り合わせで座った人に言うことにしている。「お先にどうぞ」。飲み物の注文の時に。もちろん精一杯にっこりして。
あと一歩、英文書類が眠くならずに読めればだいぶの進歩なのだが。
- 2009/09/27() 11:12:13|
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アンコールワット、運命をわけた悲鳴
今までもあちこちで物をかっぱわれたり、すられたりしてきたが、このカンボジアのアンコールワットでの経験はあわや全財産を失くすところで、今思い出しても身がすくむ。本当に間一髪だった。
その日は途中でいっしょになった韓国人家族といっしょに、適当なホテルへチェックインした。彼らのガイドブックに出ていたホテルで、セキュリティーもしっかりしてそうで、部屋もシーツもきれいで、お湯の出るシャワーもついていたし、予算に合っていた。世界遺産になっているアンコールワットのある町なので、人でごったがえしている。防犯上、行動する時は人数も多いほうがいい。女一人というのは時によって狙われやすく、特にこういう観光地や発展途上国では気を使う。
部屋に入ってしっかり鍵を閉めて、やれやれと荷物をほどいた。小さめの背負うバッグとショルダーバッグだけでそんなに重くはないが、暑い中一日中持ち歩くとやはり疲れる。
部屋は2階にあり、窓からちょっと離れてベッドがひとつ、小さなテーブルといすがひとつ。ベランダはなく、窓にはこの国では当たり前の、防犯のための鉄格子がついている。となりの建物はは離れている。よし、と。
先に汗を流したくて、貴重品の入ったマネーベルトをベッドの上に置いて、シャワーに入った。マネーベルトは常にお腹に巻きつけて、肌身離さず身につけている。パスポートやクレジットカード、アメリカの永住権を示すグリーンカード、航空券、それに世界を移動中だったので、クレジットカードが使えない国のため貯金をおろして現金も身につけている。
もし、あのシャワーから出てくるのが、何分の一秒かでも違っていたら、その後の私の人生は変わっていたかもしれない。
シャワー室から出て、部屋に一歩踏み入れた私は、そこで信じられない光景を目にした。私のマネーベルトが、窓の外、鉄格子の間から突き出たさおに吊り上げられ、するするとベッドの上を移動しながら引き寄せられていたのだ。
悲鳴をあげて飛びついた。さおはスピードを上げて、ベルトがまさに窓の外に吸い込まれようとしたその瞬間に私の手がそれをつかんだ。
悲鳴が出っ放しで、自分でも止められない。つかめたっ、間に合ったっ、ハーッ、ハーッ、息継ぎをしながらも悲鳴のコントロールがきかない。自分の声ではないような気がした。腹の底のほうから出ている。本当に怖い思いをするとこういう声がでるのかと頭のどこかで感じている。取り返した、取り返した、、。足がガタガタ震えている。
まさに間一髪だった。ベルトを固く握り締めながら、まだそれが自分の手の中に戻ってきたのが信じられない。あの状況ではどうみても外に消えて当然だった。夢中でジャンプした自分の跳躍にも驚いた。火事場の馬鹿力みたいな超能力でも起きたのか。安堵でひっくひっくしながらも、足の震えが止まらない。全身が小刻みに震えている。
となりの屋根に、竿がなげだされている。どこに逃げていったのかわからない。誰も様子を見に来てくれなかったし、そっとドアを開けて見た廊下にも誰もいない。恐くてもう一歩も出たくない。
鉄格子がはまっていたし、2階だったので油断した。暑いのでちょっと窓を開けていた。もしこれを失くしたら、その後どうなっていただろう。まだ次に住む場所も決まってなく、今まで住んでいた場所も引揚げ、荷物も全部整理し、移住地を見つけるまで地球を少しづつ移動していた。本当にこの他には荷物もすぐ使えるお金も、帰る住まいもなかった。身動きできなくなっていただろう。そしたらどうなっていただろう、、。どう人生が変わっていただろう。それはそれでまた別の発展があったのだろうか。
今回も神様に守られたような気がする。そういつも思って感謝しているせいか、これだけショックを受けても、2,3日で直ってしまうのが我ながら感心する。そして、立ち直るとますます元気が出て旅が好きになる。辺境地へ行けば行くほどもっと行きたくなる。いったい私の頭の中、、じゃない、前世は何だったのか、と思う。
ところで最近私は、悲鳴コンテストで一位になった。おかげさまで、というか。今思うに、あのゼロコンマ何秒かの違いで助かったのは、わたしのあのいきなりあげたすさまじい悲鳴に、テキの手がほんの一瞬緩んでしまったような気が、、、。
- 2009/09/24() 19:13:28|
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夕焼け小焼けで日が暮れて
この歌を聴くと、切なさといっしょに思い出すあるシーンがあります。主役は子供たちではなく、カラスの方です。「やーまのお寺」のかわりにハイウエイが出てきます。
夕方近くでした。バンクーバー近郊のハイウエイの側です。車の窓からカラスが一羽空を飛んでいるのが見えました。
最初見たときは、伝書バトならぬ伝書カラスかと思いました。四角いエアメールのような物を口にくわえて一生懸命飛んでいます。ただ、その飛び方がちょっとふらついています。飛んでいる高さも低めです。ハイウエイは、こちら側の道路からちょっと高めの位置にありますが、それでも高度が低そうで、必死に飛んでいます。何だろうと思って、驚かせないようにそろそろと近づいて行きました。驚かされたのは私の方でした。
カラスが口ばしにくわえていたのは、フライドチキンの箱だったのです。あの有名な赤と白のおじさんのマークの。ええ、「トリ」です。両方とも、
だいぶ中身が入っていたんだと思います。きっとお家で待っている子カラスたちがいっぱいいるんでしょう。喜ぶ顔がみたくて必死になって飛んで行くのでしょう。とっても重そうでした。自分の体重よりあったかもしれません。ちょっと力を抜くとたちまち降下します。はっと気づいてばたばたと上を向いて高度を取り戻します。でも持ちこたえられずまたすぐ降下。まるで酔っ払い運転みたいにふらふらです。でも決心して絶対飛んで帰るという気迫が切々と感じられます。
笑っちゃいけない、笑っちゃいけない。吹き出そうとするたびに、「からすもいっしょに帰りましょーー」と頭の中で歌詞が鳴り響き、昔見た教科書の挿絵の幸せそうなカラスが、オレンジ色の空を家路につくシーンが思い浮かびます。切なくなります。 空は夕焼け小焼けです。演出もいいなあ。
残念ながら、後ろから車が来て私もハイウエイに乗ってしまったので、それからどうなったかわからずじまいです。お寺の鐘もなりませんでしたが、カラスがあの重い箱を持ってなんとか帰れましたように。
それにしても、あの箱いったいどこから運んできたんだろう。もしかして、赤白マークおじさんの会社が用意したPR用か。近くに隠しカメラがあったりして。
- 2009/09/24() 15:56:35|
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アフリカ、一本道での遭遇
ここはアフリカ、赤道直下の国ケニアです。その日は広い広いサバンナの中を走る一本道を運転してました。見わたす限り草原で、一本道にすれちがう車もありません。遠くにガゼルたちの群れがみえます。真っ青な晴れわたった広い空に、サバンナを走る一本道。
と、前方からやっと車らしいものが来るのがみえました。一本道をこちらに向かってきます。でもちょっと様子が変です。タイヤが見えません。それに車にしては高さも大きさもありすぎです。
私の頭の中は、はてなマークでいっぱい、目は釘付けです。まだ何だかわかりません。脚のようなものがついてます。私の車と同じスピードくらいで走ってます。どんどん近づいて行きました。
やっとそれが何だかわかる距離へ来ました。なんとそれは、灰色をした丸い雲とその雲から降っている雨でした。まるで、天気予報図の雨天の図を切り取ったように見事な形の楕円形の雨雲と雨、、!
私の顔は固まりました。頭も固まりました。いったい何がどうしてどうなるとこういうことになるのか、検討もつきません。あっという間に近づいて行きます。車を止めるなんてことは思いもつきませんでした。足も腕も固まっていました。青空の中の一本道を同じスピードで向こうも近づきました。道路とほぼ同じ幅で、まるで生きた雲怪獣が大足で走ってるように。雨をたらしながら、、。
「あ、入る、入る、入るー、」と、思う間もなく、雨のカーテンに突入。思わずひゃっ首をすくめました。ワイパーを回す間もなくあっという間にすれ違いました。
すぐ後ろを振り返りました。何事もなかったように、雨雲怪獣は一本道を走っていきます。ずんずんと。堂々と。青空の中の一本道を。
いったいあれは何だったのでしょう。35年たってもあまりに強烈なシーンです。
今は天気図が傘になってるようですが、私の頭の中は今でも天気図の雨の記号は、楕円形の雨雲とその下に描かれた点々の雨なのです。
- 2009/09/24() 13:02:00|
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アンカレッジ、何だこれは、、
アラスカへ行って住み始めて、一番最初に驚いたことがあります。それまで考えたこともなかったことです。赤道直下の国へ始めて行って、夜空に南十字星と、北斗七星が地平線の反対側に同時に見えた時もすごい感動でした。これもそれを上回るくらい感動でした。
アンカレッジ空港に到着し、入国検査を済んで到着ロビーに出たのは夜10時を過ぎていました。今から7年ほど前です。知り合いもいないし、ホテルも到着してから空港にある予約電話で安めのところをあちこちあたり、ひとつだけ空いてた部屋のホテルの迎えの車で来てもらいました。次の日にレンタカーを借りて、4,5日新しい町とその近郊を見ながら、モーテル泊まりだったので特に気がつきませんでした。
住むところを決めるのに何軒か見てまわった中で、ドイツ人女性の住む二階建ての家の、眺めのいい一階のゲストルームが気に入り、その場でレンタカーから荷物を降ろして引越ししました。小型の旅行ケース一個だけの簡単な引越しでしたが、小さな台所がついて食器も一通り揃っていたし、テーブルも椅子もあり、大家さんのドイツ人女性はいろいろ親切にマットレスにタオルやシーツまで貸してくれました。
さて、新しい住まいでの最初の朝が明けました。山の中腹の高台にあって、なだらかな勾配の大きな庭の遠方に山と海も見えるきれいな所です。部屋は空調が効いて心地よい暖かさ。伸びをして、いい気分で窓に行ってカーテンを開けました。何か変です。、、一瞬自分の頭がおかしくなったと思いました。
昨日の夕方は、窓から雪をかぶった山々と海に沈む太陽を見て、そのあまりのダイナミックさに感動し、アラスかにいるんだなあ、新しい生活がはじまるんだなあと実感したのでした。なんと今目の前に、昨日海に沈んでいった太陽が、またその同じ海から昇ってきているのです。何だこれは、、。
厳密に言うと、窓の左側に沈んでいった太陽が、今度は同じ窓の右寄りから上がってきたものでした。でも、昨夜はっきりと覚えてます。ああ、きれいだなあ、こちらに太陽が沈むということは西側だから、東から昇る朝日は見えないな、残念。と。
まさに目が点になりました。少しして驚きからさめると、あまりの発見に飛び上がって踊りだしたくなりました。鐘を鳴らして大声でまわりに知らせてみたい気分です。ま、落ち着いて、落ち着いて。知らないのは私ばかりです、ここでは。ガリレオが地球は丸いと発見したのがわかるようです。それだけここは北の位置にあり、緯度が高いので太陽が少ししか動かない、と当たり前のことを地理か科学の時間で習ったような気がします。が、頭で理解しても、それを実際思ってもみない角度から経験するのとは大違いです。はあー、何でいままで気がつかなかったんだろう。
誰も信じてくれませんが、いや、本人も信じられないことだけど、実はこのアラスカに来ることになったのは、神のお告げ。もとえ、コインのお告げでした。まだ行ったことの無い所に住みたくて、一枚のコインの裏と表に、「カリブ海」と、「アラスカ」と書き、目を閉じて空中にえいっ。
将来アメリカから年金をいただく予定の私は、住むところはアメリカ領土内で、一年に6ヶ月以上は滞在すること、という大前提があります。カリブ海には、米領「バージンアイランド」という島があります。
コインのお告げは大当たり、と朝日を見てどきどきわくわく。何かまだ知らないおもしろいことがきっと起こると大満足の私でした。
- 2009/09/24() 11:54:42|
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うそみたい
今までいろいろな職業を経てきたが、その中でもだんとつのおもしろい面接が忘れられない。
ある日、アラスカ州にあるアンカレッジという町で新聞の求人欄を見ていた。片道切符で引っ越してきて3ヶ月近く。そのときに目に入ったのが、「ダッチハーバー」で「マリタイムエージェント」を探しているというものだった。
ダッチハーバーという所がどこにあるかもわからずに申し込んで、面接となった。その「マリタイムエージェント」とやらになるための心得を書いた紙を先に渡され、読んでくれという。いわく
毎日24時間、休みなしの仕事に耐えられ
いかなるストレスにもめげずに
早く理解でき
早く判断でき
早く食べれて
早く眠れて
早く起きれて
早く読めて
早く書けて
早く聞けて
早く歩けて
高くて揺れるなわばしごが登れて
それを難なく下りれるひと。
おお、笑える。気に入った。これだけ明確に謳われると楽しくなった。「ノープロブレム」と言ったら採用になった。うそみたいだった。
その「ダッチハーバー」という所もうそみたいな所だった。
頼りない小さな飛行機に乗って3時間飛んでいったアリューシャン諸島の真ん中の「ウナラスカ」という小さな島に、飛行機は3回着陸を試みて見事に降りた。そこにはアリュートというどこか懐かしい顔つきの現地人が住んでいた。一年中風が強く、木が一本も生えてない。翼を広げると人間の背の高さ以上にもなる巨大なわしが、わさわさと怪鳥のように空を飛んでいる。まるで白い羽毛のブーツを履いたような太い脚で舞い降りて来て、猫をさらっていく。月夜の晩は、ふさふさに膨らんだ大きなしっぽを持つきつねがピザ屋の前に集合する。鮭がうじゃうじゃ先を争って川を上って来る。くじらが海岸まで近づきすぎて帰れなくなる。あざらしが踊りながら水面から顔を出す。大きなきのこや木苺、ブルーベリーが山ほど採れる、と今まで見たこともないすばらしい所だった。まるで映画のセットのように現実離れした町だった。
もうひとつ、期待していた、道路に「かにが横断中」のサインを捜したが、もしこれがあったら満点だった。捕り放題ではなかった、、。
このうそみたいな町の、うそみたいな仕事の条件で、うそみたいな生活が始まった。
続く
- 2009/09/22() 11:33:33|
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島から島へ
その日はグアム発朝8時10分発の飛行機に乗るため、4時30分に起きました。太平洋の小さな島から島へと結ぶ「アイランドホップ」と呼ばれるルートの飛行機で、マーシャル諸島にある島のひとつへ行くことになりました。グアム島を出て、まさに島伝いに飛び跳ねるように飛んで、また飛んで、又飛んで行って5個目の島、そこで数日滞在して気象観測の手伝いです。
搭乗して座席に行くと、先に20歳くらいのミクロネシア出身らしい若い女性が通路側の席に座っていました。長いちじれ気味の髪を後ろに束ね、浅黒い肌のスリムでいかにもこれから行く島のどこかの出身ですというな素朴な感じです。挨拶をして隣の窓側の席に座らせてもらいました。慣れない飛行なのか、ちょっと緊張気味の様子です。
しばらくして食事が出ました。いり卵と、ハム、じゃがいもの朝食を、いつもどうり残さず頂き、ナイフとフォークを揃え、持ちやすいように使い終わった皿を重ねて、上に紙ナプキンをかぶせました。
ふと見ると、隣の彼女がこちらをそっと見ながらテーブルの上の手を動かしています。自分の食べ終えた機内食の皿やナイフを、私が食事トレイに置いたとうりに並べ替えているところでした。ま、そんなあー。かわいらしい動作を見て、なんだかほっと心が和みました。
それをきっかけのように話が始まりました。
彼女の実家はトラック島、今はチュークといいますが、そのトラック島から「スピードボート」に乗って約10分、トノアスという小さな島とのことです。そこで先日亡くなったおじさんのお葬式に行くところだそうです。彼女はその島に9歳まで住んで、その後親戚のいるグアムに一家で引越ししたそうです。
トラック島はグアム島から最初に飛び跳ねたところにある島で、「飛び跳ねている」時間は一時間20分。もうじき着くはずです。
亡くなったおじさんというのははまだ56歳だったそうで、18歳の時に親が決めた12歳の女の子と結婚、11人の子供とたくさんの孫たちがいて、このお葬式に親戚中が集まるということです。たぶん村中あげてのたくさんの人たちがやって来て数日間続くことでしょう。トノアス島には、かつて日本軍が戦った痕跡が残っているとも教えてくれました。そのそばに洞穴もあるそうです。戦時中はきっと日本軍が使ったんでしょう。また、島には宿泊施設も娯楽の設備もないそうで、彼女は初めてグアム島へ行った時は、その大都会ぶりにくらくらするほど驚いたそうです。
飛行機が高度を下げ始めました。そろそろトラック島です。青と緑と水色のさんご礁が見えてきました。トラック島周辺はまた、世界有数のダイビングスポットになっています。そういえば、ずっと以前一度この飛行場を通過した時に、海底に沈む戦時中の船の近くを泳ぐダイバーたちのことを聞いたことを思い出しました。
眼下の海を見ながら、トノアス島というサンゴに囲まれた小さな島に住み、そこで生まれて育って、12歳のお嫁さんをもらい、たくさんの家族に囲まれて一生を終えた彼女のおじさんという人のことを思ってみました。おじさんの小さい頃は日本人のことをどういう風に教えられたのでしょうか。痕跡地で遊んだりもしたのかな。あぶないから行っちゃだめとか言われて育ったのかも。洞窟も探検しただろうなあ。その中で自分で火も熾せたり。す潜りで透き通った海に深くもぐって、家族のために魚やえびなどたくさん捕ったかも。島のココナツやバナナやたろいもなどを使った料理が毎日の食べ物で。
それに、ねえ、おじさん、聞いてみたい。小さいお嫁さんのことをどう思っていた?
飛行機は、泳いでる魚まで見えそうな透き通ったさんご礁の海に近付いて行きます。飛行場のターミナルに集まったたくさんの迎えの人たちも見えます。すそにフリルのついたカラフルな民族衣装のワンピースを着た女性たちが見えます。濃い緑の木々に映え、赤や黄色やピンクのハイビスカスやブーゲンビリア、白いプルメリアの色も鮮やかで、着陸したとたん空気がぐっと濃くなった感じでした。
小さい頃のおやつは、手作りのココナツキャンディーとココナツアイスクリームだったと語ってくれた彼女。また島へ帰ってなつかしい味にふれることでしょう。
にっこりと笑って手をあげる彼女を見送りながら、そういえば私の田舎のおばあちゃんも、会ったこともない隣の村の人と結婚式をあげたと昔教えてくれたなあ。なんだ、あまり変わらないじゃないか。それにおばあちゃんも、10人近くの子供を生み、生まれた地区から一歩も出なかったぞ。観光客なんか一人も来ない。外国人なんて見たことない。おやつだって手作りだ。田んぼにいる「いなご」を煮たおやつだった。どうだ。ココナツアイスクリームよりずっとインパクトがあるじゃないか。彼女に教えてあげたかったな。なんだかトラック島がぐっと身近になった気がしました。
おばあちゃんのことを思い出してる間に、コンチネンタルミクロネシア航空機は時間が来てドアを閉めました。
次に飛び跳ねて行くところは、ポナペ島です。
- 2009/09/22() 08:33:35|
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ああ、モロッコ
モロッコのカサブランカ駅です。私と娘はベンチに座って、まだ少しあるマラケシュ行きの汽車の時間を待っていました。モロッコの主要都市だけあり、駅の構内は国内外の旅行者で混み合っています。
トランプをやっている私たちのところに、にこにこした10歳位の男の子がやってきました。手にオレンジジュースのびんをもっています。私たちの隣に座ってトランプをするを様子を見始めました。そのうちにまだ手をつけてないそのオレンジジュースをどうぞと私たちに差し出しました。にこにこしてます。さっきから何だろう、何の用だろう、このへん危ないから貴重品気をつけて、と娘と話をしていて、せっかくだけどと断りました。
男の子はまたにこにこして私たちのトランプを見ます。そしてまたどうぞとジュースを差し出すのです。自分は一口も飲んでいません。先に飲んでと言っても、飲まずににこにこしているだけです。
やっぱりそうに違いない。どこかで聞いたことのある睡眠薬入り飲み物だ。気をつけようねと話しながら、ふと男の子の視線が一瞬外に移ったのに気がつきました。どんぴしゃりです。はたしてそこには壁に半分隠れて恐い顔をした男がこちらを見て立っていて、私が見たのであわてて向きを変え歩き去りました。男の子は一瞬下を向いて、泣きそうな顔になりました。男から睨まれたのです。
このジュースを飲ませて、眠り込んだところでさいふを抜き盗って行くというあの手法です。飲み物はコーヒーだったり、ウイスキーだったりと聞いてます。それでも男の子は頑張ってまだ私たちにジュースをすすめます。最初から不自然だった笑顔をこわばらせながら。
あの男は父親なんでしょうか。それともこのへんを仕切る親分で、他にも同業に仕立てた子供たちがどこかにいるんでしょうか。どんな家庭の事情があるかわからないけど、帰ったらお仕置きでもあるのでしょうか。うまくいくまでごはんも食べさせてもらえないかも知れません。「気の毒だね」としゃべってる私たちに、あきらめきれないようにジュースを差し出してくる男の子。
よく見ると、あやしまれないようにか身なりはこざっぱりしています。さっきの親分が、ぶんどった金でまとめて洗濯女に出してるのか。学校には行かせてるのか。兄弟はいるのか。睨まれてどんな思いか。だんだん今さっき逃げて行ったあの男に腹がたって来ました。やい、このへぼおやじ。そんなところへこそこそ隠れてなんちゅうざまだ。子供使って悪事働いてただですむと思ってんのか。このーっ。自分だけ良かったら子供の将来なんかどうなってもいいのか、あほ。どあほー。肥溜めに落ちろー。
この男の子は、この小さな頭の中で何を考えてるんでしょう。自分の運命をどう思っているんでしょうか。楽しみは何なのでしょうか。
ああ、モロッコかあ。願わくば、あの救い難いへぼおやじが一晩にして心を入れ替え、ぶんどり金全部差し出すクリスマスキャロルのような事件が起き、この子たちに平和と幸福の時が訪れてくることがありますように。誰かちゃんと導いてくれる人が現れますように。
列車が入る時間になり人が動き始めました。さあ、マラケシュまでこれからまた3時間半の旅です。12歳の娘といっしょに立ち上がりました。彼女は荷物を背負いながら、自分とあまり背丈の違わないこの子をそっと見ています。
男の子はジュースをベンチの下に置き、肩を落としています。この後、力を振り絞って次の仕事に行くのでしょう。それしかないのでしょう。また外から男に見張られながら、今度は誰を相手にしなきゃいけないのでしょうか。
カサブランカの夏の長い一日が過ぎようとしています、、。
- 2009/09/21() 03:08:45|
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つくづくアメリカというという国はすごい、と思わされる事を友人から聞いた。
ここはドイツにあるアメリカ軍基地。その中に世界最大規模の戦争トレーニングセンターというものがあって、中に擬似アアフガニスタン国があるんだそう。そこで模擬生活をする「俳優」や「女優」がいて、世界中からアメリカ側の兵隊さんたちが、戦地に行く前にトレーニングに集まってくるという。
すごいところは、この基地のそばに本物のアフガン人難民たちも多くいて、彼らも採用され配役されてしまうところ。足りない役は市民から募るという。そこで脚本どうりの「芝居」をして、兵隊さんたちのために、アメリカ軍のために働くのだ。
平和すぎる日本の国から来た私にはただただびっくり。もちろんこの他にイラクとか別の国々の模擬国がその時の状況で作られるという。
こんな海外での考えもつかないことに莫大なお金を使うアメリカの軍事力のすごさというのに、改めて思い知らされる。
実はこれはアメリカ国家のマル秘のプロジェクトということを忘れていました。ゆえにこのページは著者の意図する時に削除する予定です。
PS.Yちゃん、Tさん、読んだー?(前にも一度言ったけどね)
- 2009/09/20() 15:02:11|
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